2014年10月23日、ホンダは、ハイブリッド車「フィット ハイブリッド」をはじめとする4車種でリコールを国土交通省に提出しました。今回は、「ものづくり」の観点から、このニュースについて考えてみたいと思います。
約1年で5回のリコール
今回のリコール対象となるのは、2013年6月~2014年10月に製造した42万5825台で、フィット ハイブリッドについては24万7571台となります。ホンダの小型車向けハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-DCD」を搭載する車両が関係するリコールは、これで5回目となる訳ですが、今回の不具合は、このハイブリッドシステム部分ではなく、電気回路部分となります。
フィットハイブリッドのリコール
・2013年10月:7速DCTの制御プログラム
・2013年12月:7速DCTの制御プログラム
・2014年2月:7速DCTの制御プログラム
・2014年7月:モーターの制御プログラム
・2015年10月:今回の電装系の不具合
(注)DCT:ハイブリッドシステムのデュアルクラッチトランスミッション
さて今回のリコールについては、次の2つが対象となっています。
(1)点火コイル構造が不適切な為、エンジン不調や停止をもたらす恐れがある。
(2)電源制御ユニットがノイズにより誤動作し、走行中にメータパネルが消灯し、エンジンが停止する恐れがある
実際の市場での不具合発生件数は、(1)が571件、(2)が78件となっています。何れの不具合も最悪エンジン停止の可能性がありますが、幸い事故は報告されていない様です。
複雑化する自動車
技術や人的資源に恵まれたホンダでさえも、発売から約1年で5回ものリコールが起こる背景について考えてみたいと思います。なお近年は、ホンダに限らず他のメーカーにおいてもリコール頻度が高まり、多数の車種におよぶ事例が増えています。
この背景として考えられるのは、電子化を始めとするクルマ自体のシステムの複雑化でしょう。また開発の負担を低減する為、部品やシステムの共通化が進んだ反面、何か問題が生じた場合は、複数車種に影響が出る傾向が高まっています。ちなみに今回のリコールについても、対象車種は、「フィット ハイブリッド」の他に「ヴェゼル ハイブリッド」、「N-WGN」、「N-WGN Custom」となっています。
「ものづくり」の現場に携わっている人ならば理解できると思いますが、どの様な製品であれ、システム的に強い部分もあれば技術的な限界、コストおよび開発期間等の制約を受けて弱い部分も存在するものです。その為に安全性や重要な部分を優先してリソース配分する事になりますが、複雑化するシステムに対して全てのケースを想定した検証を行う事は、現実問題として非常に難しくなってきています。品質については、やはり地道な経験や技術の積み重ねが重要です。ホンダのモーターとエンジンを組み合わせてたハイブリッド・システムも徐々に、その完成度が上がっていく事を期待したいと思います。
なお技術者ではない一般消費者の方には、技術は決して万能でなく完璧な製品という代物は存在しない事と、製品というものは多かれ少なかれ、技術・コストにおける無数のトレードオフ調整の帰結点である事をアドバイスしておきたいと思います。その様な実態を良く知っている故に、エンジニアを生業としている人には、新製品のファーストロットを決して買わない人も結構います。(もっとも技術系でない方が、このサイトを利用する可能性も低いかも知れませんが…)
開発負担の増大と業界再編
自動車においては、今後も電子化やハイブリッド化が進み益々複雑化が進展していく事でしょう。技術的ハードルに対して相対的に開発期間が短くなるバイアスがかかり続ける傾向は避けられないと考えられます。
運転の自動化なども考えると単独で全てを負担するのは難しくなり、今後は数社共同のプラットフォーム開発や標準化の動きが加速していくのではないかと思います。おそらく日本メーカーほど独自志向の高くないヨーロッパをはじめとする欧米メーカーが先導していく可能性が高いですが、この時どう行動していくかにより、日本の将来の自動車産業の構図が大きく変化していくのかも知れません。
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