生活費支給のベンチャー支援について考える

7月19日、読売新聞のHP(Yomiuri Online)に、「起業後押し、650万の生活費2年支給へ…政府」という記事が掲載されました。この支援策への反響は大きかった様ですので、これを機に日本の起業環境について考えてみたいと思います。

NEDOとは?

NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、
日本のエネルギー環境分野と産業技術の開発を支援、促進する事を目的とした独立行政法人です。NEDO自体は研究開発施設を保有しておらず外部研究機関への委託研究や、今回話題となった支援策の実施などが主な活動となります。なお、NEDOは、”New Energy and Industrial Technology Development Organization”の略となります。

支援策の内容と背景

実は、今年5月にも日経新聞電子版で同じ様な支援策について取り上げられましたが、反響は7月の読売新聞の記事の方が大きかった様です。

5月の公募概要(日経電子版等より)
年10~15組の起業家を公募し、1人あたり500万円/年程度を上限とした人件費と、1チーム(2〜3名)あたり1500万円以内/年の活動費(市場調査、試作旅費等)を支援する。

7月の公募概要(Yomiuri Onlineより)
起業家候補者が、NEDOの契約社員となる形をとり、生活費650万円を「給与」として支払う。15社(1社当たり最大3人)程度を選ぶ予定で、試作品づくりや市場調査のための補助金(上限は年間1,500万円)も支援する。

一般の補助金は研究開発費などに用途が限定されているのが普通です。一方やはりベンチャー企業の資金繰りは楽ではなく、下請け的な業務もこなしていかなければ回らないという現実があり、本来注力すべき研究開発に十分な資金と人的リソースを集中できないという課題が存在する事は事実で、この様な支援策が出てきた背景と言えるでしょう。また起業をためらう理由の一つとして、起業後の生活の不安が挙げられるのも確かですので、その観点からすると効果的な条件でしょう。

支援策についての反応は?

読売新聞を始めとしたメディアに取り上げられた事もあり、発表後に数回予定されていた説明会は、予約が満席の様で反響の大きさが伺えます。
識者や各種メデイィアの論調としては、肯定的な意見は少ない様に思えます。おそらく支援額や対象企業の数からして効果は限定的である事は確かでしょう。
英語には、”Ramen Profitable”という言葉があり、これは文字通り、ベンチャー企業が早期に「ラーメン代」、メンバーの生活費を賄える程度の利益を稼ぐことを指しています。つまりは、ベンチャー企業の資金繰りが楽でないのは、日本だけの問題ではなく、「本来注力すべき研究開発に十分な資金と人的リソースを集中できない」というのが問題の本質ではない様にも感じられます。ちなみに”Ramen Profitable”という言葉は、米シリコンバレーの著名ベンチャー投資家、ポール・グラハム氏が提唱し同氏のエッセーなどで使われています。

今回の施策は、対象が「研究開発型ベンチャー企業」に限定されており、また大手新聞社に取り上げられた結果、注目度が上がり非常に狭き門になったと言え、おそらく厳しい審査を通過できる、それなりの応募者しか選ばれないでしょう。問題提起や候補者レベルの底上げという意味では、世間に注目される事で良い効果をもたらしたのではないでしょうか。

日本の企業活動の厳しい現実

日本商工リサーチの調査結果によると、2013年の休廃業・解散件数は2万8,943件で、過去10年で最多とされています。これは倒産件数の約2.6倍に相当します。つまり企業の廃業は年々増加を辿っており、日本の企業活動が全般的に低下している事の証左と言えます。
一方、開業率は、4.6%で、フランス(15.3%)、英国(11.4%)など先進国と比べて大きく見劣りする状況です。

起業家自体の構成も、日本においては大きく変化しています。総務省「就業構造基本調査」のデータを元に、起業家の年齢別構成の推移を整理してみると次の様になります。

起業家の年齢別構成の推移
1982年:29歳以下=22.1%、60歳以上=8.1%
1992年:29歳以下=28.2%、60歳以上=14.2%
2002年:29歳以下=16.4%、60歳以上=24.6%
2012年:29歳以下=11.9%、60歳以上=32.4%

60歳以上の起業は、おそらく現役時代の仕事の経験を活かしたものでしょう。また、この世代は年金受給もあり、個人の金融資産の6割以上を占めるとの推計もありますので、若い人に比べて資金的な余裕もあるのでしょう。しかし次の時代を担うような新しいビジネスが生まれてくる可能性は低く、その観点からすると、29歳以下の起業家が年々減少しているのは、憂慮すべき状況と言えるでしょう。

有効な起業促進策とは?

前述のフランスの開業率(15.3%)ですが、実はサルコジ前大統領の時代に大きく上昇しており、同大統領の導入した施策が一定の効果をもたらしたとされています。(実は今回のNEDOの補助もフランスの施策を参考にしたとの報道が一部でなされている様ですが、詳細は確認できていません。)
フランスの政策が、そのまま使えるかどうかは別として、政策的に効果のある手法が存在する事は確かでしょう。
おそらく、それは本質的に、
・企業運営コストの低減
・規制の緩和
・起業に失敗した場合のセーフネット
等の施策を通じて、一定数以上の人が起業するメリットを十分感じるような仕組みを、各々の国情に合わせて構築する作業と言えるでしょう。

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