LTspice入門:BJTモデルの利用

LTspiceで、BJTのモデルを利用する方法を解説します。

方法は二通り

半導体各メーカーでは、BJT(バイポーラ・トランジスタ)のSpiceモデルを配布しています。この記事では、Rohm社のBJT製品、2SD1781を例に手順を説明していきます。まず、Rohm社の製品ページに行って、Spiceのモデルをダウンロードしておきます。

Rohm: 2SD1781
2sd1781_hp_1

2SD1781は、32V/0.8AのNPNトランジスタです。

(2SD1781 Datasheet)
2sd1781_datasheet_1

ダウンロードしたSpiceモデルをLTspiceで利用する場合、以下の二通りの方法があります。
(1)standard.bjtにモデルを追加する
(2)Spiceモデルファイルを読み込む

上記の各方法で次の2つのモデルを追加してみます。
・2SD1781K:(1)の方法でモデル
・Q2SD1781K:(2)の方法で追加したモデル

この記事では、この2つの方法で作成したモデルで同じ回路を作成しシミュレーションしてみます。もちろん名前が違うだけなので、結果は同じです。

standard.bjtにモデルを追加する方法

ファイルを開くメニューを選択します。

(Open)
model_bjt_win_1

デフォルトでインストールされているstandard.bjtを開きます。

(Open an existing file: standard.bjt)
model_bjt_win_2

standard.bjtは、通常下記のディレクトリにあります。
C:\Program Files\LTC\LTspiceIV\lib\cmp

インストール時に、インストールする場所をデフォルトから変更している場合は、読み替える必要があります。なおライブラリ等の保存場所については、記事「LTspice入門:ライブラリやサンプルのディレクトリ」を参考にして下さい。

(standard.bjt)
model_bjt_win_3

一方こちらは、ダウンロードしたSpiceモデルの内容です。拡張子は、.libですが通常のテキストエデイィタで開くことができます。

(Q2SD1781K Spice Model)
model_bjt_win_4

モデル名、Q2SD1781Kでモデルが定義されています。このモデルをコピーし、standard.bjtの最後にペーストします。

(Paste Q2SD1781 Model and Edit)
model_bjt_win_5

基本的に必要な作業は、これで終了ですが、この例では次の変更を加えています。
・モデル名をQ2SD1781Kから2SD1781Kに変更
・コメントの追加
・モデルの最後に以下の説明を追加(LTspice独自機能)
Vceo=32 Icrating=0.8 mfg=Rohm

(2SD1781 Model)
model_bjt_win_6

また、オリジナルのモデルは、

.Model Q2SD1781K NPN
+
+

の形式で記述されていますが、見やすい様に元のLTspiceの記述方法と合わせて

.Model Q2SD1781K NPN(…)

の形式に変えています。なおSpiceでは、見た目上、改行したい場合は、+を先頭に記述します。また*以降はコメント扱いになります。

(File→Save)
model_bjt_win_7

standard.bjtファイルを保存すれば、準備は完了です。

Spiceのライブラリを読み込む方法

Spiceのライブラリを読み込んで使用する場合は、対応するシンボルを用意する必要があります。シンボルの作成方法については、LTspiceのページに、まとめてありますので、そちらを参照してください。

ここでは、記事「LTspice入門:シンボル作成例〜既存シンボルから作成」で取り上げた方法で、シンボルを作成していきます。まず、ファイルを開くメニューを表示させます。

(Open an existing file)
model_bjt_win_8

デフォルトでインストールされているNPNトランジスタのモデルを開きます。モデルファイルと同様に通常は、

C:\Program Files\LTC\LTspiceIV\lib\sym

に、npn.asyがあるので、これを選択します。

(Symbol of npn)
model_bjt_win_9

オリジナルを変更しない様に注意してください。まず、Save As…で名前を変えて保存します。

(File→Save As…)
model_bjt_win_10

この例では、q2sd1781k.asyとして保存しました。また保存場所は、シミュレーション用の回路を保存するディレクトリにしています。

(Save As: q2sd1781k.asy)
model_bjt_win_11

Edit→Attributes→Edit Attributesを選択して、Symbol Attribute Editorを起動します。

(Edit→Attributes→Edit Attributes)
model_bjt_win_12

Symbol Attribute Editorの画面です。この例で変更する項目は、Valueです。

(Symbol Attribute Editor)
model_bjt_win_13

ValueをNPNから、Q2SD1781Kと変更します。

(Symbol Attribute Editor: Setting for Q2SD1781K)
model_bjt_win_14

Valueの値は、Spiceファイルで定義されている

.Model [Model Name]
+
+

の[Model Name]と一致させておく必要があります。この例では、Q2SD1781Kとなります。また上記以外の方法で、シンボルファイルを作る場合は、各端子のNetlist Orderを次の様に設定してください。

Netlist Order=1: コレクタ
Netlist Order=2: ベース
Netlist Order=3: エミッタ

シミュレーションの設定

上記の方法で作成した2つのモデルを用いて、確認用の回路を新規作成してみましょう。

(New Schematic)
model_bjt_win_15

まず(1)の方法で作成した2SD1781を回路図中に配置します。Select Component Symbolで、npnを選択します。

(Select Component Symbol)
model_bjt_win_16

回路図中に配置します。

(Place npn symbol)
model_bjt_win_17

シンボルを右クリックするとメニューが表示されるので、Pick New Transistorを選択します。

(Right Click→Pick New Transistor)
model_bjt_win_18

作成したおいた、2SD1781Kを選択します。なお選択メニューで、モデルの最後に追加した、Vceo=32 Icrating=0.8 mfg=Rohmが表示されているのが判ります。これで設定は終了です。

(Select Bipolar Transistor: 2SD1781K)
model_bjt_win_19

次に(2)の方法で作成した、Q2SD1781Kを回路図中に配置します。

(Select Component Symbol: q2sd1781k)
model_bjt_win_21

回路図中に配置したQ2SD1781Kのシンボルです。

(Place q2sd1781k)
model_bjt_win_22

このシンボルに対応するモデルを、.libあるいは.includeコマンドで読み込む設定を記述します。この例では、

.lib 2sd1781k.lib

を記述しています。回路図と同じディレクトリあるいはLTspiceのモデルディレクトリに.libファイルがない場合は、フルパスで指定してください。

(Test Circuit)
model_bjt_win_23

上記回路では、2SD1781KとQ2SD1781Kを用いて同じ回路を作成しています。シミュレーションを実行し結果を表示させます。

(Simulation Result)
model_bjt_win_24

両者は、名前が違うだけでモデルの中身は同じなので全く結果は同じです。

まとめ

LTspiceでBJTを用いる方法を説明しましたが、最後に2つの方法の特徴をまとめておきます。

(1)standard.bjtにモデルを追加する方法
・手順が簡単
・オリジナルのstandard.bjtに変更が必要
・他の設計者とデータをやりとりする場合は注意が必要
・LTspice独自の方法

(2)Spiceモデルファイルを読み込む方法
・対応するシンボルを用意する手間がある
・本来のSpiceシミュレータの方法
・他の設計者とデータをやりとりしやすい

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