LTspiceは、リニアテクノロジー社が無料で配布する電子回路シミュレーターです。
回路シミュレーターSPICEとは
電子回路シミュレーターは、SPICEとよばれるものがデファクト・スタンダードです。SPICEは、カリフォルニア大学バークレー校で1973年に開発されたアナログ回路用のシミュレータで、これ以降、多くの民間企業などで、これをベースとした製品がリリースされています。
SPICEの入力情報としては、主に次の3つが挙げられます。
1)回路素子の結線情報であるSPICE Netlist
2)SPICEのシミュレーション用コマンドなど記載する、SPICE Directive
3)素子の特性を記述したModel Library
これらを読み込み回路シミュレーション計算を行う事がSPICEの主な機能ですが、現在では、使いやすい様に回路図エディタやシミュレーション結果を表示する波形ビューワとセットなったものを指すと考えても良いでしょう。
また上記(1)から(3)については、種類によって多少異なる「方言」の様な部分もあり、具体的な計算エンジンも様々なものが存在しています。
LTspiceの特長
LTspiceは、リニアテクノロジー社が自社製品の拡販の一環として配布するツールの一つです。なおリニアテクノロジー社について、ご存じない方は記事「アナログIC超優良企業! リニアテクノロジー」も是非ご一読下さい。
さて、LTspiceのライセンス数は世界で600万以上とされており大きな支持を得ています。その魅力は主に次の4つと考えられます。
LTsiceの魅力
1)無料であるが素子数などの使用制限はない
2)高速で収束性も高い
3)リニアテクノロジー社以外の電子部品でも知識さえあれば使用できる
4)SPICEに準拠
従来、これほどの機能とGUIインターフェースを持ったSPICEは資金力のある一部企業でしか使用できませんでした。何故無料なのかと疑問に思われる方もいるかも知れませんが、この背景には、LTspiceにはデフォルトで、リニアテクノロジー社製品のモデルがバンドルされており優れた設計環境を提供する事で自社製品の拡販を図るという意図があります。
Googleが無料のスマートフォン向けOSであるAndroidを配布する事で、コア事業である検索事業の拡大を図ったのと同じ様なイメージでしょうか。
LTspiceの技術
LTspiceのコードサイズは、演算部分が約40万行。GUIが約10万行とされています。つまりほとんどが、シミュレーターの計算エンジン部という事になります。すこし専門的な話となりますが、その技術的な特徴を挙げてみたいと思います。
1)マルチスレッド処理
1CPU内でのマルチスレッド処理が可能です。従来、SPICE系シミュレーターは、並列処理が苦手とされてきましたが同社の独自技術で、それを実現しました。ただし複数CPU間では連携が難しくなり、1CPU内でマルチスレッドが走る場合が最も効率が高くなります。
2)セルフオーサリング技術
演算用レジスタに格納するデータをプログラム側で管理する同社の独自技術です。Intel CPUはレジスタ演算は非常に高速ですが、レジスタに格納するデータのメモリ・アドレスの処理に時間がかかる課題があり、それが同技術により解消されました。
3)Modified Trapezoidal Integration法
カリフォルニア大学バークレー校が最初に開発したSPICEの計算方法は、Gear Integration法が採用されていました。その後、Trapezoidal Integration法が開発され、現在のSPICEでは両方の計算エンジンを備え選択可能である事が多くなっています。リニアテクノロジー社では、Trapezoidal Integration法を更に改良した、Modified Trapezoidal Integration法を追加しています。Trapezoidal Integration法は一般的に、Gear Integration法より高精度なものの収束しにくい傾向がありましたが、リンギングが起こらないようにして精度を上げたのが、同社のModified Trapezoidal Integration法となります。
4)新しいパワーMOS FETの素子モデル
ディスクリートのパワーMOS FETの中には、垂直方向にも電流が流れるバーティカル構造と呼ばれる素子形態をとる製品があります。この構造ためミラー容量を考慮した新たなVDMOSモデルを開発しシミュレーションできる様にしてあります。また高耐圧トランジスタ向けに広島大学らが開発した「HiSIMHV 1.2」といった比較的新しい素子モデルにも対応しています。
まとめ
LTspiceは無料ながら商用シミュレータに匹敵するほどの機能を備えた回路シミュレータです。アナログ回路の場合、マイコンの様なデジタル回路と違いファームウエア書き換えによる修正が行えません。従って不具合があるとPCBごと設計・試作のやり直しというリスクが存在する訳です。従来、高価であったシミュレータが無料になった事による恩恵は計り知れないものがあります。
eagy laboでは今後、LTspiceの使い方について初歩的な事から一通り解説していく予定です。また2013年11月には、従来のWindows版に加えて待望のMac版もリリースされました。Mac版は移植版ではなくネイティブアプリなので、GUI周りはWindows版と異なっているので、Windows版、Mac版の両方について解説していく構成となる見込みです。
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