バイオミミクリーとクモの糸

今回のコラムでは、バイオミミクリー(bio-mimicry)について取り上げてみたいと思います。

バイオミミクリーとは?

バイオミミクリー(bio-mimicry)とは、生物の形状や仕組みを参考にして技術を開発することで、バイオミメティクスやネイチャーテクノロジーと表現される場合もあります。身近な例を挙げるならば、マジックテープは、オナモミ類の実が服などに付着しやすい事に着想を得たものです。また、新幹線のパンタグラフ部には、風切による騒音防止対策として、フクロウの風切り羽根に注目したノコギリ状のパターンが表面に施されています。

(書籍:自然と生体に学ぶバイオミミクリー)

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注目される新素材としてのクモの糸

近年のバイオミミクリーで注目すべき点は、バイオテクノロジー等をはじめとする技術の発達により、本物に極めて近いものを人工的に造り出す事が不可能でなくなってきた事でしょう。その中でも注目されているテーマの一つが、クモの糸を人工的に造り出す技術です。クモの糸は、同重量の鉄よりも強く、伸縮性はナイロンの2倍もあるので、新素材として高い注目を集めており、次の様な幾つかの企業が開発を進めています。

スパイバー
山形県鶴岡市にあるベンチャー企業で、経済産業省(NEDO)等の支援を受けています。クモがを糸を構成するタンパク質を作り出すときに働く遺伝子を推定し、微生物に組み込み込む事で全く同じ構造の新素材を作らせる事に成功、現在では量産技術を開発中と発表しています。

アムシルク
ドイツの企業で、”Biosteel”と名付けたクモの糸の試験生産を拡大すると発表しています。同じく遺伝子組み換え技術を用いて生成したタンパク質で人工的なクモの糸を造り出す事に成功しています。

クレイグ・バイオクラフト・ラボラトリーズ
アメリカの繊維企業で、カイコを遺伝子操作しクモ糸繊維を含んだ生糸を紡ぎ出せるようにしたのが技術的特徴です。

人工クモの糸は、タイヤや自動車部品といった工業製品、人工血管などの医療分野への応用が期待されていますが、他の素材にはない、その強度や伸縮性を活かした様々な用途も広がっていく事が予想されます。

(書籍:生物に学ぶイノベーション―進化38億年の超技術)

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商業化のハードル

この様に成長が期待されている人工クモの糸ですが、アイディアから量産・商業化へのハードルは高いものがあります。実際、カナダのネクシア・バイオテクノロジーズは、遺伝子組み換え技術によって、ヤギにクモ糸に似たタンパク質を含む乳を出させることに成功し、2000年に新規株式公開(IPO)で4240万ドル(約43億円)調達しましたが、最終的に量産・商業化を断念、2009年に廃業しました。安定的な品質の製品を大量かつ一定内のコストで製造していくには、研究室とは、また異なった課題を解決していく必要があると考えられます。

まとめ

生物が長い進化の過程で得た形状や仕組みを参考にするバイオミミクリーは、極めて合理的な技術的アプローチの一つです。バイオテクノロジーをはじめとする技術の発展と相まって、従来想像の域であったアイディアが現実化していく事例が、これからも出てくるかも知れません。

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